
『記念写真欲しいッ!ちゃんとしたヤツ!!!』
と、せつらが言い出したのは一週間前。
・・・・なら、律に頼むか。
八坂律。俺の従兄弟でプロのカメラマン。ヌード専門だが、世界的にも名の知れた男で、その腕は確かだ。
律に頼もうと考えていたのは、せつらも同じだったらしい。
近いうちに、と考えていたが、それは見事に覆される。
次の日には、撮影の日取りが決まっていた。
・・・・まったく、せつらの行動力には頭が下がるな。
そして、一週間後の6月8日。
俺とせつらは今、律の撮影スタジオにいる。
無人と思われたスタジオの中には、何故か大勢のギャラリーがいた。
律は多忙な身だ。今日のためのスケジュール調整も大変だったろう。
だからと言って、この数は多すぎないか・・・?
これでは、落ち着いて撮影も出来ない。
案の定、せつらはかなり緊張しているようだった。
俺の腕の中で、小刻みに震えている。
「・・・・・せつら。平気か?」
せつらは、困ってような顔をし、俺を見上げた。
「・・・・・聞いてない、こんなの。こんなギャラリーいんなんてさ。律、一言も言わなかった」
・・・確かに。
「・・・俺も、これは予想してなかった」
言って苦笑する。が、せつらはそんな俺に笑い掛ける余裕もない程、青ざめていた。
俺はそっとせつらの手を取った。
汗ばんだ手が、緊張の度合いを伝えている。
「・・・・周りを見なければいい。大丈夫だ。俺がいる」
「・・・・・・ん」
せつらはただ頷いて、俺の胸に顔を預けた。
が、身体の強張りは未だ取れない。
当然だろう。
この独特の空間の中で、落ち着けという方が無理な話だ。
せめてこの外野を追い出せないものかと律を見ると、ヤツはカメラのセッティング中。
隣にいるのは、別件で訪れたスポンサーらしい。時折、会話を交わしている。
・・・・仕方ない。俺はせつらに視線を戻した。
細腰を引き寄せて抱きしめ、身を屈める。柔らかな髪に口付け、握った手の指を絡めた。
しかし・・・・。
先程から、せつらに向けられる視線が気になる。
これだけ愛らしい容姿なら、目立つのも当然だ。
が、だからと言ってギャラリーが増えるのは面白くない。
俺はせつらを隠すように、胸の中に包み込む。
「・・・・ちょっと妬ける。皆、お前が可愛いからって見に来て・・・。俺は、見せたくないんだけどな」
すると、せつらは顔を上げて反論した。
「違うよ、慎一」
じっと俺の目を見つめ、口を尖らせる。
「見てんの、俺じゃない。慎一だよ。・・・・ここに入って来たときだってさ、真っ先にモデルの人、慎一に声かけたじゃんか」
「律と従兄弟だからだろ?・・・・・・それか、顔が似てるから、じゃないか?」
もしかしたら、俺がモデル経験者だと、知っての事かもしれない。
11年前。短期間ではあるが、モデルを経験した。
高校卒業を間近に控えたある日、友人の頼みで、ショーのモデルをやった事がある。
それからズルズル一年続けてしまった。
が、その一年を経験し、俺には性に合わない世界だと悟った。だからすぐに足を洗った。
律は、プロカメラマンになる6年前まで、モデルの仕事を続けていたが。
ま。もしそうだとしても、俺にはどうでもいい話だ。
俺は、顔を上げたせつらの瞳をじっと見つめ、微笑む。
大丈夫、俺がいる。
そう言い聞かせるように念じながら、握り返された手を引き寄せ、指先にキスをする。
「・・・慎一?」
ピクッと反応したせつらは、次の瞬間、カッと頬を赤く染めた。
俺を見つめ、
「ダメだよ」と、慌てて手を引っ込めようとする。
「・・・・どうして?」
俺は声を潜めて囁いた。
逃げをうつせつらの手を強く握り、
「周りなんか気にする必要ないだろ?緊張をほぐすにも、いつも通りにしてた方がいい」と告げる。
せつらの隙をついて頬を傾け、その唇に素早く、触れるだけのキスを落とした。
不意打ちのそのキスに、案の定、せつらは目をぱちくりさせた。
固まったように、俺から目を離さない。
が、俺がゆっくりと身を起こすと、せつらは身を乗り出すように、追い縋ってキスをしてきた。
「慎一、ズルイ。こんな場所で、キスするなんてさ。けど、・・・ずっと緊張してようかな?そうしたら、何回キスしてくれる?」
せつらはクスクスと笑った。
ここへ来て、初めて見る笑顔だ。
俺はホッと胸を撫で下ろす。
「・・・・お望みなら何回でも」
俺は笑った。
・・・いや、待て。・・・という事は・・・。
「緊張しっぱなしって事は、俺はずっと、強張った顔のお前にキスしなきゃなんないのか・・・?」
言いながら、俺はもう一度、せつらの柔らかな唇にキスをした。
「どうせなら、笑った顔がいい。今みたいに、驚いた顔も可愛いけど」
「ダメ、だよ。だってさ、」
せつらは、耳貸して?と、屈むように俺を指で手招き、小声で耳打ちする。
「笑顔は慎一限定だから、他のヤツには見せられない」
「はは・・・それもそうだ」
俺は破顔した。
「じゃ、とりあえず今は自然体で。・・・記念写真だろ?お互い強張った顔してる訳にもいかないからな」
「うん」
せつらは満面の笑みを浮かべ、頷いた。
その時。
突然、シャッター音が鳴り響いた。
見れば、律がこちらにカメラを向け構えている。
律は、呆れたように言った。
「うぉい!そこでいきなりおっぱじめんなよ?お二人さん!」
するか、お前じゃあるまいし。
律は待ちくたびれたと言わんばかりに、せつらに念を押し確かめる。
「・・・・せつら、もういーかよ?」
「いいよ、平気。てか、律、俺の慎一を撮るんだから、バッチリ決めてね?」
「へいへい。バッチリね」
少々投げやりな返事をした律は、カメラを構え直す。
すると、急に顔つきが変わった。
仕事モードに入ったようだ。
俺は、久々の、ある種心地良い緊張感の中、カメラに目を向けた。
シャッターを絶え間なく切りながら、律は指示をはじめた。
「慎一はそこキープ。せつら、顔少し上げて。レンズの中心見て」
俺達は自然と、繋いだ手の指を滑らせ、再び指を絡めあった。
せつらの表情は窺えないが、落ち着きを取り戻しているのだろう。
触れ合った箇所から、柔らかな温もりが伝わってくる。
その時、不意にせつらが呟いた。
「・・・慎一は、誰にもあげない。俺の、だしッ!!」
その声は思いのほか大きく、室内に響き渡った。
周囲の視線が一斉にせつらに集まり、ザワつきが一転にして静寂になる。
・・・・まったく。
そんな事宣言しなくても、俺はお前のモノなんだけどな。
呆れながら溜息をつく。
とは言え、せつらの言葉は嬉しくて、つい、口元が緩む。
そんな事言ったら、調子に乗るぞ?
せつらにそう呟きそうになった時だ。
律の、調子に乗った一言が響く。
「お〜。なら、ヌードでも撮っとくか」
・・・・って、おい。
「冗談じゃない、却下」
俺は律を睨みつけ、即答した。
SS(慎一×せつら) 2004.6.8up